有りがたうさん

伊豆を題材にした小説や映画は多く、特に有名なのは川端康成氏の「伊豆の踊子」でしょうか。
何度も映画化されていますので馴染みが深いですよね。
そんな川端氏のもうひとつの伊豆での作品が「有りがたうさん」です。
昭和11年に上原謙さん主演で映画化されていました。
セット撮影を一切使わないオールロケでの創りは当時としては画期的だったそうです。
そのため、今見ると面影のある風景を随所に見ることができ、
のんびりとしたよき時代にタイムスリップしてしまいます。
「伊豆の峠路を走る乗合い路線バス
その運転手を人々は”ありがとうさん”と呼んだ」
伊豆の村落を抜けて峠路を走る定期乗合バス。山道で出会う人々が道端に避けてくれる度に「ありがとう」と感謝のひと言をかける若い運転手は、街道の人々から”ありがとうさん”と呼ばれていた。道行く人のことづてや、町での買い物まで引き受けて慕われる彼のバスには、様々な人々が乗ってくる。今日も始発の町から乗り込んだのは、港から港へ旅する訳ありげな女、貧しさのために東京へ売られていく娘と、その母親、髭の頑固な紳士、金の発掘を夢見る男、行商人たちなど。人それぞれの悲哀や難行辛苦を乗せて運行していた。